寒さとともにやってくる冬の使者


秋も深まると、朝に玄関先に出たときは、吐く息が白くなることも多くなります。
冷え込んだ日には鳥を見に行くのも、億劫になるかもしれません。

しかし、冬にしか会えない鳥もたくさんいます。
冬に日本にやってくる鳥たちのことを、“冬鳥”といい、ハクチョウやカモの仲間がその代表選手です。
繁殖地であるシベリアなどから、翼を一生懸命はばたかせながら何千キロという距離を、森を越え、海を越え、何ヶ月もかけて日本に渡ってきます。命がけの旅をして日本にやってきてくれる鳥たちに、ぜひ会いに行っていただきたいと思います。  

今回紹介するのは、その冬鳥の一つ、ツグミです。



日本全国に渡ってくる鳥です。大きさはムクドリと同じ24cmですが、ムクドリよりも体形がほっそりしていて尾羽が長いため、ムクドリより小さく見えることもあります。全体的に焦げ茶色や黒色の地味な模様ですが、翼の赤茶色が特徴です。



芝生の上を歩く姿を探そう


ツグミは木の実や昆虫、ミミズなどを好んで食べる鳥で


雑木林や畑、人家の庭先にもやってきますが、公園の芝生や畑などの開けた地面の上で歩いて餌を採る姿が見つけやすいでしょう。ムクドリを紹介したときに足を運んだような開けた場所に行けば、きっと見つかると思います。

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ムクドリと同じ環境を好むツグミですので、ムクドリと一緒に行動している場合もしばしば見かけます。ツグミを見つけられない場合は、まずは年中群れているムクドリの中に、ツグミが混じっていないか、確認していく方法で探してみるのがよいでしょう。

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ツグミの中には、ワシやタカなどの天敵が現れたときにすぐに身を隠せる藪や樹林を好む個体がいます。




地味な模様をしているツグミですので、見つけるのは難しいかもしれません。まずは開けた場所でしっかり観察して、 “自分の目をツグミに慣らす”のがよいでしょう。藪の中にいるツグミは、歩くときに落ち葉などでガサガサと音がすることも多いので、その音を頼りに探すのも方法の一つです。


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歩き方の違いに注目


ムクドリと一緒に行動するツグミを観察できる機会があったら、歩き方の違いに注目してみましょう。ムクドリはずっとノコノコと歩いて餌を探すのに対し、ツグミはトコトコと軽快にしばらく歩いてからスッと背筋を伸ばすように立ち止まります。


この行動の違いに注目すれば、遠くで色が見えにくい場合などでも、芝生の上にいるツグミとムクドリの見分けは、簡単にできます。


個性豊かな装いのツグミたち


ツグミはシベリアからたくさん渡ってきます(注1)。開けた芝生の上では複数の個体に出会うことも珍しくありません。その場合、胸の模様の違いに目を向けてみましょう。  注目していただきたいのは、胸の黒い斑点の密度の違いです。一様に斑点があるもの以外に、


よく見ると画像のように2段になっているものがいます。


この“2段ツグミ”の中にも、バリエーションがあり、不明瞭なものや明確に2段になっているものなど、さまざまです。





また、稀ではありますが、ほぼ真っ黒のものもいます。


この写真の個体は2012年4月に私の家の近くに現れて、ゴールデンウィーク直前まで滞在していました。特徴的な模様であれば、このように個体識別にも役立ちます。このような違いに注意していると、ごく稀ではありますが、ツグミの亜種(注2)であるハチジョウツグミという胸の斑点が赤茶色をしている珍しい鳥の飛来を確認できるかもしれません。



翼の赤茶色も一羽ずつ個性がある


胸の模様だけではなく、翼の赤茶色にも個体差があります。濃い赤茶色のツグミが多いのですが、ずいぶんと薄い色のものもいます。


このような差は、私が子供の頃(30年くらい前)には個体による違いとされていましたが、近年出版されたヨーロッパの野鳥図鑑では雌雄による差だという記述がされるようになりました。鳥についての新しい知見が発見されることはとても興味深いことです。新知見に基づいて考えれば、


のような赤茶色の個体は雄、


のような個体は雌ということになります。
しかし、越冬地である日本では、雄の「さえずっている姿」を見ることができません。つまり、確実な雌雄の判別方法が日本では使えないのです。いつか彼らの繁殖地であるシベリアの地に赴いて、さえずっている雄の翼の色や、巣にやってくるつがいの様子を観察して、翼の色と雌雄差との関係をこの目で確認したいと考えています。


季節の移ろいを、ツグミの行動変化から感じる


先の話になりますが、冬を無事に越したツグミたちは、3月になると繁殖地に戻る準備を始めます。餌をしっかりと食べて体に栄養を蓄えるために餌探しに熱中するためなのか、警戒心が薄くなります。芝生広場のある公園のベンチに座ってじっとしていると、すぐそばまでやってくることも珍しくありません。タンポポの花とともに見られるように3月以降は、特にその傾向が強くなります。


秋や冬には、人影を見るとそちらに常に気を配っていたツグミが、人のそばでも平気で餌を採るようになると、私は「ああ、春が来たな」と感じます。このようなちょっとした変化から季節の移ろいを感じたときは、自分だけの宝物を見つけたような気持ちになります。バードウォッチングは、人生をとても豊かなものに変えてくれるものだと、私はつくづく感じています。





撮影地:
神奈川県(海老名市、秦野市)、群馬県(館林市)、埼玉県(狭山市、所沢市)、東京都(調布市、三鷹市)、新潟県(佐渡市)


お勧め機種:
ツグミは中型の鳥ですので、視野の広い8倍の双眼鏡で探すと見つけやすいと思います。また、芝生広場などの開けた場所では鳥の位置を把握しやすいので、望遠鏡を使ってじっくりと観察することもお勧めです。

<双眼鏡>
エンデバーEDシリーズ
スピリットEDシリーズ
<スポッティングスコープ>
エンデバーHDシリーズ


注1:
2011-2012年冬は、冬鳥の飛来が非常に少ない年で、ツグミの飛来もなかなか見つからない状況でした。このような例は稀ではありますが、ときにはこのようなケースも自然界にはあります。

注2:
亜種(あしゅ)とは、生物の分類区分で、種の一つ下の区分。広い意味では同じ種ではあるか、分布域や生息範囲の違いによって、羽の色や嘴など、一部形態に変化が見られるものを、その種の範囲内で分けたもの。





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