飛んでいる鳥を双眼鏡で捉えてみよう


これまでは、飛ぶ鳥を双眼鏡に入れることについては、お話しませんでした。
その理由は、野外で双眼鏡を使うことに慣れてからではないと、飛んでいる鳥をレンズ内に捉えるのはとても難しいからです。
連載も20回目となり、止まっている鳥の位置とレンズの向ける方向にズレが少なくなってきていると思いますので、もう一つステップを上げて、双眼鏡に鳥を捉えてみましょう。しかし、いきなり小形の素早い鳥を双眼鏡に入れるのはたいへんですから、体が大きくて動きがゆったりしている鳥を選びたいと思います。


大形の猛禽類、トビ


飛んでいる鳥を双眼鏡で捉える練習には、大形の猛禽類のトビが適しています。


全身濃い茶色で、全長60-65cmと大形。翼を広げると1.5mほどにもなります。日本全国に生息していますが、沖縄などでは珍しいようです。嘴の先端がモズのように鉤状に曲がっているのは、食物である肉を引きちぎるのに適した形をしています。
脚は短く、止まっているときはほとんど見えませんが、



獲物を持って木にいるときなどは、青灰色の綺麗な脚を確認できることがあります。



漁港にでかけよう


トビは日本全国の山地にも平地にも生息していますが、写真のような海岸沿いの漁港へ行くのが良いでしょう。



なるべく見晴らしのよい場所を選んで上空を見ていれば、ゆったりと飛ぶ姿に出会えます。


海辺以外では、大きな川沿いや湖、田んぼの上空などがお勧めです。



普通、猛禽類は単独かつがいで縄張りをもつのですが、海岸部のトビは群れを作っていることも多く、発見も容易いので、観察するのに適した貴重な猛禽類です。



風を巧みに使って、省エネ飛行


猛禽類のトビは、積極的に生きている生物を狩るのではなく、弱った魚や死んだ生きものを食べています。餌を見つけるために広範囲を移動するのでエネルギーを消耗しないように風を巧みに使います。太陽が当たって地面が温まったり、風が山の斜面を駆け上がる上昇気流が起きると、トビはそこへ続々と集まってきます。


上昇気流に乗って羽ばたかずに高度を上げていきます。
遠くまで見渡すことで餌の発見が容易になったり、そのまま滑空し別の場所に移動できる省エネのメリットがあるからです。
本当に不思議なのですが、トビにはどうやら気流の有無がわかるようです。
私はトビを観察することで野外を歩くときには風の起きやすい地形や地理的条件を“トビの目”で探すのも楽しんでいます。


近くのトビより、遠くのトビ


さて、トビの飛翔姿を早速観察してみましょう。
双眼鏡で飛んでいるトビを捉えるコツは、近くを飛ぶトビではなく、ちょっと遠くにいるトビで、上昇気流の中でくるくると輪を描いて飛ぶものやゆっくりと飛ぶものを対象にして、近寄ってくるまで追い続けるとよいでしょう。
双眼鏡は高倍率よりも8倍程度のほうが視野が広く、トビを捉えやすくなります。しばらくすると、少しずつトビの飛行に目が慣れていき、すぐに双眼鏡の中に入れることができるようになると思います。


翼の白い斑と尾羽の形に注目


トビを見つけたら、特徴である“翼の白斑”と“尾羽の形”にまず注目しましょう。


尾羽の形は猛禽類を見分ける上でとても重要で、「三味線のバチ」や「お好み焼きのヘラ」と例えられるトビの尾の形は、遠くからでも確認できる大切な識別ポイントです。ただし、尾羽が抜けていたり、ボロボロの状態だったりすることもありますので、注意も必要です。


尾羽に注目したので、もうひとつ観察ポイントを紹介します。
飛んでいるときに尾羽を小刻みに動かしてバランスを取っている様子もぜひ見てください。



何でも飛びながらこなす


飛ぶことに長けているトビは、いろいろなことを“飛びながら”行ないます。しばらく双眼鏡で追ってみましょう。

まずは、餌探し。頸を自在に動かしながら食べ物がないかを探しています。


食べ物を見つけると急降下し、脚を伸ばしてつかみます。



見つけた餌の大きさにもよりますが、大きくないものであれば、空中で食べることもしばしばです。




食べれば、出るものが出ます。それも空中ですることがあります。よく見ると脚を前に出して糞が脚につかないようにしています。



鳥の世界は下克上?!


トビを観察していると、よくカラスに追われていることがあります。


これは、被捕食者が天敵に対して攻撃を仕掛けて捕食から逃れるモビングと呼ばれる行動です。前にお伝えしたように、トビは死んだ魚などを食べていることが多く、カラスをまず襲うことはありません。しかし、カラスはトビを執拗に追いかけて追い払います。


このような光景をみて、「トビとカラスの仲が悪いわけ」という昔話を作っています。あらすじは、こうです。

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むかし、鳥はみな真っ白だった。
雛が迷子になったりすると、誰の子供かわからなくなって困っていました。
そこでトビが「皆に色をつければいい」と提案し、みな賛同。
トビがそれぞれの鳥たちに色付けをはじめました。
キジはいろいろ注文をつけて派手にしてもらい、ツルはたくさんの鳥に色付けをして疲れてきたトビを気遣って首と翼の一部の黒と、頭の赤をお願いするだけにしました。
そこへやってきたカラス、ほかの鳥がうらやましがるような綺麗に塗れといろいろ指示をしました。
しかし、ヘトヘトのトビは、つい黒色の塗料を蹴っ飛ばしてしまい、カラスの頭へザバーン。
怒ったカラスは、今でもトビを追い回している。 
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というものです。

科学的には『モビング』という味気ない言葉になってしまいますが、鳥たちの行動からこのような物語を創造する先人たちの豊かさに感心します。


トビから始まる猛禽の見分け


野鳥観察を始めた方から、 「かっこいい猛禽類をたくさん見るにはどうしたらいいか?」 という質問をされることがあります。
その際に私は、 「まずトビをしっかり観察してください」とお答えしますが、それを聞くとちょっと不満そうな顔をされる方もいます。
しかし私の経験上、トビを観察する力をつけることが猛禽類をたくさん見るには一番の近道だと信じています。

図鑑にもかっこいい姿がたくさん乗っている猛禽類は魅力あるグループで、私も鳥を見始めて間もないころはよくそんな姿をみたいとさまざまな場所へ出かけていました。しかし、見つけることはできずに帰ってくることがほとんどでした。

しかたないので、見つけやすいトビを観察していたのですが、トビを見ていると時々トビとは別の猛禽類がいることに気がつきました。
つまり、たくさんいるトビを見ることでよく空を見るようになり、さらにトビの尾羽や翼の白斑を目がしっかり覚えたことで双眼鏡に入ってすぐに“トビではない猛禽類”と判別できるようにもなっていたのです。

私に鳥の観察方法を教えてくれた方が 「身近な鳥との出会いを大切にしていると、いろんな鳥に出会えるようになるよ」 とよく仰っていたのですが、まさにその通りだと思います。
皆さんにも、まず身近な鳥の観察を続けていただき、そこからたくさんの出会いに広げていっていただけたらと思います。
きっとそう遠くない将来に、あこがれの鳥たちとの出会いにつながると思います。



撮影地:
石川県(金沢市)、神奈川県(愛川町、相模原市、真鶴町、三浦市)、群馬県(館林市)、埼玉県(川越市、飯能市)、静岡県(伊豆市)、千葉県(鴨川市)、新潟県(佐渡市)、北海道(釧路市、七飯町)、東京都(台東区)


お勧め機種:
トビは飛んでいることが多く双眼鏡で捉えることが始めのうちは難しいかもしれませんので、倍率は大きくないもの(8倍が最適)がよいでしょう。また、空がバックになるとシルエットになりやすいので、明るいレンズのほうが便利です。
スピリットEDシリーズ
エンデバーEDシリーズ

止まっている場所が分かってきたら、望遠鏡を持っていって観察するのもよいでしょう。
エンデバーHDシリーズ
エンデバーシリーズ



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